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株式会社 久和屋
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NEWS・BLOG
記事
久和屋の手と目

木の「呼吸」を計算する、余白の設計者

工場長
澤口佳宏

工場長・澤口が語る、無垢材と歩む43年の軌跡

「良い家具というものは、ぱっと見た瞬間にときめいて、いつまでも眺めていたくなるような味わいがある。私たちが目指しているのは、直感が働いて『良いもの』と伝わるブランドです」

静岡県焼津市の久和屋自社工場。ここで入社以来43年にわたり、家具づくりの現場に立ち続けているのが、工場長の澤口です。彼の歩みは、久和屋が無垢家具のスペシャリストへと進化を遂げてきた歴史そのものと言えます。

営業から設計へ。
独学で切り拓いた「作る」道

澤口のキャリアは、意外にも営業職から始まりました。当時は静岡が日本屈指の家具産地であることすら知らなかったと言いますが、現場で職人たちの世界に触れるうちに、モノづくりの世界に強く惹かれていきました。
営業として各地の売り場に出入りした経験は、澤口にとって大きな財産となりました。自社製品だけでなく、他社の家具を間近で観察し、その構造や品質を学んだことは、現在の工場長としての確かな眼へと繋がっています。
そんな中、フランスのブランド「リーン・ロゼ」の名作ソファ『トーゴ』に出会います。その独創的なデザインと機能美に強い衝撃を受け、憧れを抱いたことが、設計の道へと舵を切る決定的なきっかけとなりました。

そして、設計士だった父への憧れもあり、家具づくりへの想いを強くした澤口は、自ら志願して企画職を経て製造現場へと転身します。
「当時は体系的に教わる場が少なかったため、夜間学校に通いながら、木材の性質や接着、塗装の知識を必死に独学で習得しました。現場で直面する課題を一つひとつ自力で調べ、解決していく。その積み重ねが、今の私の土台になっています」

無垢の洗礼から学んだ、
余白を設ける設計

しかし、設計者としての道のりは決して平坦ではありませんでした。かつては、木が伸びる方向を十分に考慮せず、完璧に整合性をとって設計した家具が、後に割れてしまう言わば『無垢の洗礼』を受けたことがありました。 「きっちりと作りすぎたことで、木が動く逃げ場をなくしてしまったんです。木が縮んでも隙間ができず、膨らんでも構造を壊さない。この失敗こそが、現在の私の核となっている『余白』の作り方を学ぶ大きな契機となりました」

澤口の設計は、木の「呼吸」をあらかじめ計算に入れた設計でもあります。 「木は切り出された後も生き続けており、常に湿気を吸ったり吐いたりしています。機械の精度と、その時々の木の個性をどう掛け合わせれば、数十年後も狂いのない形に落とし込めるか。今でも難しい課題であればあるほど、その試行錯誤のプロセスにワクワクします」

24年の歳月が証明した、こだわり抜いた食器棚

試行錯誤の末に掴み取った大きな成功例が、かつて担当した「檜の食器棚」です。 澤口は設計にあたり、骨董屋へ足を運んで古びた無垢のタンスの構造を時間をかけて調査しました。製作の過程では、木が縮みすぎてしまうなどの壁にぶつかりましたが、割れや縮みの原因を突き止め、ついに完成へと漕ぎ着けました。
「同僚からも称賛を得られた会心の作でした。先日、販売から24年が経った現在でも、当時と変わらぬ姿で使い続けていただけていることを確認できたのは大きな喜びでした」

難題に挑み、チームの絆を強くする

2014年には、S社への納品という前例のないプロジェクトに挑みました。「4メートルを超える巨大なケヤキの一枚板テーブルは、木材探しからクレーンを駆使した21階まで運び上げる搬入まで、多くの難題をクリアする必要がありました。しかし、最後は全員で納品に立ち会うなどの一体感が生まれ、チームとしてより強くなったことを感じました。」

孫の代まで受け継がれる「アンティーク」への願い

澤口が見据えているのは、家具が納品されたその先の、数十年後の姿です。「私が目指すのは、長く使い込まれ、いつか孫の代で『アンティーク』と呼ばれるような家具をつくることです。そのために、納得するまで何度もやり直して開発を続け、「これでいいや」と諦めないものづくりをしています」

他社の家具を見ても、つい無意識に引き出しの裏側をチェックしてしまう。そんな純粋なモノづくりへの好奇心を持ち続ける澤口の「目と手」は、今日も焼津の工場で、未来のアンティークをつくり続けています。


工場長のこだわり道具
澤口が設計の過程で欠かさず手に取るのは、三菱鉛筆の「ジェットストリーム」です。 最終的な設計図はデジタルで出力されますが、そこに至るまでの試行錯誤はすべて紙の上での手書きから始まります。デザイナーが描いた抽象的なイメージを、木の呼吸を活かした具体的な形へと落とし込んでいく。その思考を澱みなく滑らせるために、指先に馴染む一本のペンが「余白の設計」を支えています。

プライベートの素顔
「休日にじっとしていることは、まずありませんね」と笑う澤口の素顔は、驚くほどアクティブです。趣味はスキー、登山、そしてマラソン。AORなどの音楽を愛し、仲間との時間を大切にするそのバイタリティが、仕事の現場で難題に立ち向かうエネルギーの源となっています。飽くなき行動力が、久和屋のモノづくりを支える精神的な柱となっています。